長者屋と庄原ガストロノミー

「ふるさとの非日常」
古民家で、物語を味わう二人旅。

旅好きで、全国生産者さん支援の仕事に携わるリュウジ(34)は、映像制作会社のディレクターで撮りたいテーマに悩んでいる彼女、アオイ(31)に旅行の 提案をした。「田舎のない僕らの『ふるさと』に出会いに行かないか?」二人が向かったのは、広島市内から車で2時間ほど、庄原市にある里山だった。

レンタカーで、
250年前へと向かう。

「瀬戸内海!って印象が強いだろ?それだけじゃないんだよ。山もいいんだ、広島は」

大学時代の親友と、久々オンライン飲み会で集まった時に教えてもらった。昔はバックパックを背負ってゲストハウスを一緒に点々としていたあいつも、今じゃ子供と川下りだなんて、立派にパパをしている。僕は、いまだにあの暮らすように旅する感じが好きだ。共働きで忙しく働いている僕ら二人は山でアクティブに!というよりは、とにかくのんびりとした時間が欲しかった。そこで目をつけたのが広島と島根をつなぐ「やまなみ街道」の中間にある庄原だった。お目当ては、250年前の古民家だ。

ドライブのご褒美は、
空気と名産品。

広島駅周辺から車で北上すること約1時間30分。道の駅たかのに到着する。市内より、ひんやりした空気を胸いっぱいに吸い込む。深呼吸がこんな嗜好品みたいになるとは思ってもいなかった。高野町は広島県の最北端の町で、島根県との県境に位置している。豊かな自然に恵まれている、ということが豊富に並ぶ商品からよく分かる。名産品であるりんごや大根の他、たくさんの野菜と果物に加え、お惣菜に加工品、イノシシの肉やスッポン(!)まである。食にまつわる仕事柄ついつい目がいってしまう。今晩は、これらを使ったディナーをいただく予定だ。

「ここは、小腹を満たす程度に留めておこう」

食に関しては一切喧嘩したことがないアオイと完全に意見が一致し、アップルパイとジェラートを購入した。高野りんごのアップルパイは、年間5万個以上売り上げるという「道の駅たかの」の超人気商品らしい。それに、広島県産ミルクと庄原もみじたまごを使ったジェラート。それらを一つずつ買った。アップルパイは特産の「高野りんご」のコンポートがごろっと入っており、ずっしりと重い。対してパイの歯応えは軽く楽しく、爽やかな甘さに思わず笑みがこぼれる。ジェラートは庄原バニラを。ミルクの味がしっかりするのに後味はさっぱり。他にもりんご、ぶどう、さつまいも…全て「庄原」「高野」の名前がついている。

「パイとジェラート、一緒に食べたら絶対に美味しいよね」

口の中は最後の厨房だ、と言った食いしん坊の友人がいたが、本当にそうだと思う。かけ合わせることで、新しい料理が発明される。「きっとみんなやってるんだろうけれどね」とアオイと笑う。楽しいこともおいしいことも、二人で2倍以上にできる。特に、こんな旅先は。

道の駅 たかの
〒727-0423 庄原市高野町下門田49
TEL 0824-86-3131
URL https://www.takanoyama.jp/

POINT!

アップルパイ、ジェラートと一緒に道の駅たかので味わいたいのが瀬戸もみじ豚メンチカツ!カルシウム、ミネラルを含んだ広島県産の牡蠣の殻粉末を飼料として食べたブランド豚と庄原市内産の玉ねぎを使用した、肉汁たっぷりのジューシーなメンチカツです。

なんにもない、という贅沢。

道の駅から、山を縫うように30分ほど車を走らせると、どこか懐かしい風景の中にかやぶき農家建築の古民家が現れる。今日の宿「せとうち古民家ステイズHiroshima 長者屋」だ。

250年も前からその屋号で親しまれこの里山の風景を見守ってきたその姿は、どことなく温かみを感じさせる。広い土間から入ると入母屋造りはそのままに、立派な掘りごたつの囲炉裏がある。その奥には対照的な最新の対面型キッチン。今日の夕食、名付けて「庄原ガストロノミー」のステージだ。広さは200㎡。地元で作られたという特注の広いベッド、昔ながらの技法で作りあげた広い風呂。「長者」の名にふさわしい、華美ではないが贅沢な室内。

何よりも言葉を奪ったのは縁側からの風景だった。一面に広がる里山を前に、僕らは言葉も交わさず座り込みしばらくそのままでいた。何もない。何もしていないのに豊かな時間。一泊で来たことを早くも悔やんでいた。

坂と空だけでアトラクション。

美味しい余韻とともに、アップルパイとジェラートがお腹の中にまだ残っていた。なんとも嬉しい悩みだ。しかし、メインである夜の庄原ガストロノミーとは全力で向き合いたいので、彼女のテーマ探しもかねてレンタルのe-bikeで里山を巡ることにした。宿の運営管理を担う庄原DMOの松森さんが自転車を持ってきてくれた際、話を聞かせてくれた。

「この辺りでは昔から鍬や鎌など、生きていくための道具を作る製鉄ほか、ものづくりが盛んだったんです。今でも住む人は、薪やお米、野菜など、ご自身で作って収穫しながら生活されてますよ」

あるのは坂と空、引き立て合う棚田、生きてきた人の生活だけだ。新緑の水田や、たわわに実る稲穂の黄金色に思いを馳せつつ自転車を漕ぐ。e-bikeなので坂でも楽に登ることができる。

都会の窮屈さが嘘のようで、久々の自転車ということも相まってついはしゃぎ、子供の頃のように自転車を楽しむ。高速や絶叫などの対極にあるアトラクションが、穏やかな高揚感と空腹感をもたらしてくれた。

皿の上に環る野山。

里山のマジックアワーに魅了され宿に戻ると、地元のシェフ三河さんが大きなクーラーボックスを持って現れた。カウンターを挟み、準備の段階からお話を聞ける。なんとも贅沢なアペリティフだ。庄原に戻る前は、滋賀の鮒鮓の名店で地域に根付いた料理に魅力を感じたり、猟師との出会いでジビエを覚えたり、と色々な三河さんの体験談を伺った。静かな夜が、シェフの話と調理の音を際立たせる。

「一皿目です。何、とは言えないのですが」と前置きをして出てきた皿には、里山そのものが広がっていた。「畑と里山の風情、とでも言いましょうか。土をイメージしたのは黒オリーブの粉末です。すべて地元の野菜に、猪のレバーペースト。その横の野草はカンゾウですね。レバーの肝臓とかけています」そう言って少年のようにはにかむ。「野菜を作ると猪が荒らしにくる。その猪は有害鳥獣として駆除され、こうして料理され、食べていた野菜の横に添えられています」一つのサイクルが一皿の上にある。想像力を掻き立てられる、頭が耕される感覚。口にし、咀嚼し、飲み込むと、胃に命の火が灯ったような気にさせられる。命と土地をいただいている実感がする。

「こちらではね、ワニを刺身にして食べるんです」
次は、マグロのような刺身が出てきた。また企むような微笑みでお皿を出してくれる。「県北の庄原や三次では、サメをワニというんです。保管や輸送が発達していなかった頃、腐らせずに運べて、刺身として重宝していた名残で今でも食べているんです」軽くヅケにしレモンの風味も加えてあり、魚と鶏のいいところを合わせたような、ねっとりとした食感と滋味がある。

「続いては、牡蠣、という名の料理ですね。山の大豆からできた豆腐に猪の油とキクイモを合わせたソースでどうぞ。大根は、その牡蠣の蒸し汁で炊いて猪の肉味噌を合わせています」 海のものを、そのまま庄原で出す必要はない。山の遊び心が加わっていく。

その後も、チーズの物語、古漬けの物語、どぶろくの物語…塩以外は全部庄原のものです、と言っては何とは言えない「物語の循環」を提供し続けてくれた。体はもちろん、知的好奇心に良質な血が巡っていくのが分かった。

「もともとお笑い芸人になりたかったんです。でも、漫画の影響で料理の道に進んで。出し方や意図を説明するのは、その影響もありますね。滋賀の修行先で猟師さんに出会って地域に根付いた料理の魅力を再確認し、こちらの施設で野生鳥獣の処理をやっていたら、この古民家のオープンが重なって。ご縁があって今に至るんです」デザートの後に、まだシェフの物語というデザートがついてきた。 「ありがとうございます。ごちそうさまでした」。いつもより、多めの感謝を込めて手を合わせた。

ここには循環がある。大きな企業が掲げる、ずいぶん上のところにあるような「循環」ではなく、目の前、手が届く範囲、そして誰もの笑顔が浮かぶ循環がここにはある。早い段階で再訪は決めていたけれど、こりゃ遠くないうちにまた来なきゃ、と思った。

POINT!

地元のシェフをお願いすることはもちろん、設備が充実しているので自分たちで料理を作ることもできます。肉、野菜、加工品、豊富な季節の食材を道の駅で揃えたら、IHコンロを使って鍋を囲み、こたつで地酒を傾けるなど魅力的ですね。

当たり前が、星と輝く。

夜が暗い。音がしない。命を頂く。あるものを活かす。繰り返される「当たり前」の上に、満天の星が輝いている。

二人とも、田舎がないことがコンプレックスだった。旅をし続けてきたのはその反動なのかもしれない。

「こういう土地で、ああいう物語に出会うとさ。日本そのものがふるさとだ、って考えたらいいんじゃないかって思えたの」

縁側に腰かけ、星空を眺めながらアオイが横でつぶやく。確かに、旅とは、場所を愛する人と、物語との出会いだ、と自分の中で定義ができた。

「ディレクターとして撮りたいもの。具体的にはまだぼんやりしているけれど、“残したいもの”がある。それだけははっきりしたわ」

もともと何かを見つけると猪突猛進の性格だ。猪の一皿が彼女の野生を目覚めさせてしまったかもしれない。

風呂がもうすぐ沸く。大きな湯船につかり、檜の天井を眺めがら自分の、自分たちの物語を改めて考えてみようと思う。あれだけ立派な浴槽だ、きっと体も頭もゆるんで血が巡り、いい考えがたくさん湧き出ることだろう。
この土地は、四季ごとにさまざまな魅力を見せてくれるらしい。出会いを感じとる余裕が持てるようにゆっくりと生きよう。

そう、旅をするように。

※本記事では、出演者の健康確認を行った上で、撮影のため一時的にマスクを外しています。

ツアーの詳細 / お問い合わせ先

問い合わせ先
せとうち古民家ステイズHiroshima(〒727-0021 庄原市三日市町 4-10 里山の駅庄原ふらり(一社)庄原観光推進機構内)
住所
〒727-0311 庄原市比和町三河内 1528
TEL
0824-72-3385
営業時間
8:30 - 17:15
定休日
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対象年齢
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