瀬戸内海風景が
見える温泉

「非日常に乾杯を」
第二の人生を祝うカクテルに酔う大人女子旅。

カズエ(50)はフリーのパーソナルトレーナー。ひとりで育て上げた娘もめでたく成人し手を離れた。ある時、同級生のマナ(50)から「50歳を迎えた記念に飲みに行こう」と連絡があった。快諾すると「瀬戸内にある、船でしか行けないホテルのバーで」と言う。そうだった。マナはおっとりとした子だったけど、時々突拍子もないことを言う子だったっけ……。

一杯のカクテルを飲みに、
橋のない島へ。

「やっぱり運転、私よね」
分かっていたことだから、挨拶のように伝えた。免許もないのに、離島へと誘うところがマナらしい。私たちは今、瀬戸内海を目の前に広島の竹原港でフェリーの出発を待っている。「飲みに行こう」という誘いが、まさか船でしか行けないホテルのバーだと思う人はいるまい。乗っかる私も私だけれど。

POINT!

竹原は、広島県沿岸部のほぼ中央に位置し「安芸の小京都」とも呼ばれる広島の人気観光地の一つです。今回の舞台である大崎上島は竹原からフェリーで約30分。フェリーで向かう途中には、長崎の端島と見た目が似ていることから「もうひとつの軍艦島」などと呼ばれる契島の姿を見ることができます。

気分は
アニーバーサリークルーズ。

車をフェリーに乗せて、デッキで海風に当たりながら話をする。「50歳になった記念は、カズエとお祝いしたくって」計画的でいて、突拍子もない。そんな性格を仕方ないなと思う一方で、昔から尊敬し、憧れている自分がいる。島々に差す陽の光が、マナの横顔を照らしている。「私さ、結婚式の前日に式場のホテルに泊まってたじゃない?不安でカズエを呼び出したこと覚えてる?あの時、カズエと一杯のカクテルに背中を押されたのよね」
覚えている。一緒に泊まるはずの旦那さんは仕事で遅く、結婚自体に不安を抱いていたマナに呼び出されてホテルに向かったことを。
「あの時のバーテンダーさんかは分からないけれど、これから向かう島に、40年帝国ホテルに勤めてらしたバーテンダーさんがいるんだって」人生100年時代と言われるようになった今。節目となる50歳、第二の人生への祝杯をあげに私たちは「大崎上島」に向かっている。

岩﨑農園
〒725-0301 広島県豊田郡大崎上島町中野4093-1
TEL 0846-64-5353
URL https://www.big-advance.site/s/149/1333/company

フレッシュで鮮やかな
島の暮らしが身にしみる。

島に到着し、再び車に乗り込む。マナの組んだ行程表に従い、今年カフェをオープンさせた「岩﨑農園」に向かう。農業が中心なので、営業日は月に何日かしかない。そこに合わせて来ることができた。ピカピカのステンレスと木目の調和が心地よい空間で、それぞれ自家製のレモンスカッシュ、生搾りオレンジジュースを注文する。目の前で山盛りのみかんを絞ってくれたジュースは色が濃く、改めて自然の持つ色彩に見入ってしまった。ほどよい粒感が残ったジュースは贅沢すぎるほどにみかんだった。対応してくださった気さくな奥様にその感動をお伝えすると、「だって、みかんだけですからね!THE みかんです」と笑っていた。 今、岩﨑農園には移住してきた染め物作家さんとキャンドル作家さんが働いているといい、多くの人が移住の先輩である岩﨑さんを頼りに訪ねてくるそうだ。
別れ際、冗談っぽく「いつでも働きに来てくださいね!」と言われた。第二の人生と言う言葉が急に、みかんジュースのように色彩を帯びた。

POINT!

岩﨑農園は2011年に京都からiターンで大崎上島にご家族で移住し、ハウスレモン・露地レモン・みかん・ブルーベリーなどを栽培している農家さん。ジャムやドレッシングの製造販売をしており幅広いファンがいます。地元のホテルや竹原の飲食店などにも置いてあるので、お土産にぜひ!

神様も、
終の住処にと考えた山。

天気も良いし急ぐ旅でもないので、晴れた日には115の島々が見渡せるという「神峰山」へ向かった。山頂手前にある休憩所に車を止めて、瀬戸内のパノラマを堪能する。休憩所には私たちだけで、日常の生活が嘘のようだった。「こういう場所の暮らしもいいよね〜」二人で、最近忘れていた深呼吸をする。

神峰山公園
〒725-0301 広島県豊田郡大崎上島町中野
TEL 0846-65-3455

POINT!

伝説によると、イチキシマヒメ(嚴島神社の祭神)は、行方不明の我が子を探して瀬戸内海を旅する途中この神峰山にやってきて、ここから見える景色に心癒され、一時はここに宮柱を立てて終の住処にしようと考えたと伝えられているそうです。その伝説をモチーフにした作品を休憩所では見ることができます。

浜辺にて青春ごっこ。

すっかり島時間を堪能し、今日の宿にして目的の地「きのえ温泉ホテル清風館」に到着する。来る途中から見晴らしの良い高台にある姿を見て「気持ちいいだろうな」と想像はしていたが、駐車場から眺める風景だけでももう名前の通り、清い風が心に吹くような絶景だった。天気も良かったのでお風呂の前に、ホテルの下にある砂浜に降りる。

出会った高校時代のように、はしゃいで靴を手に持って砂浜を歩いた。「年甲斐なく見えるかな?」靴を脱いだら、そんな言葉がつい口をついた。「年甲斐ってなんだろうね?」マナがいう。「そもそも誰も見てないし!」トシガイにとらわれず、夕暮れ間近の砂浜を歩く。青春っぽさのオプションとして、さっきもらった青いレモンまで持ったりして。それなりに人生を歩んできた二人の足跡が、砂浜に伸びる。「どう思う?」新しい彼の印象を聞くような口調でマナが聞いてきた。「いいところだよね?」いいか悪いで言ったらこれ以上ないくらいにいいところだ。それに、旅に出るくらいには時間と余裕があって、気のあう友がいて。大変な状況は続くだろうけれど、今の今だけ切り取れば、なんと幸せなことだろう。マナはさらに続ける。「引越し考えちゃったりもするな〜」 今日1日の時間を思い出す。「毎日楽しいですよ!」と笑顔で断言していた農家さんや、町全体を包むゆっくりとした時間。少し共感する自分もいた。絶景が自慢の清風館の露天風呂に入ったら、その気持ちは強くなってしまうかもしれない。

POINT!

瀬戸内の島々を見渡せる絶景露天風呂は清風館の自慢の一つ。泉質はナトリウム、カルシウムを多く含んだ塩化物冷鉱泉で、神経痛や関節痛、冷え性、高血圧など幅広い効能があり、病後回復期にある方には特におすすめの天然温泉だそう!

瀬戸内の幸に舌鼓。

お風呂から上がり、部屋に戻る。見渡す限りに豪勢な夕食が用意されている。「お互いの50歳に」とビールで乾杯をし箸をつけていく。地のものを中心としたお刺身、鮑のおどり焼き、餡掛けの茶碗蒸し、鯛の尾頭とあらを煮たもの……やっぱりご飯も文句なしに美味しい。「食材も豊かよね〜」鯛の釜飯の湯気のむこう、マナが何かを確信するかのようにニコニコとしている。

今夜、青という名のBARで。

20時になると、そのバー「サファイア」は開く。ついに、今回の旅の目的、伝説のバーテンダーと20何年ぶりかのご対面だ。と言っても、その人かどうかは分からない。しかし、可能性はゼロではない。ピンと背筋を伸ばし、一点の汚れもない黒いスーツにキリッと蝶ネクタイをして、田村さんは現れた。帝国ホテルで40年、バーテンダー一筋で勤め上げ、縁あって移住しこのホテルで働いているとのことだ。時代時代の首相や著名人をもてなしてきたことなどおくびにも出さず、深々とお辞儀をし、テキパキと動く。とても70歳を過ぎている風には見えない。「あの…」マナがゆっくりと言葉をつむぐ。「実は私たち、25年ほど前、帝国ホテルのバーで一杯のカクテルに背中を押されたんです。田村さんの話を耳にして50歳の記念に今日ここに来たんです。それが田村さんだったかは分からないのですが、田村さんの生き方に惹かれて……これからの第二の人生、背中を押すようなカクテルを作っていただけませんか?」

「それはわざわざ……。かしこまりました」
田村さんは静かに笑顔で答える。機敏な手つきで何本かリキュールのボトルを取り出し、デコレーションのフルーツを準備する。祈るように両手でシェイカーを握りシェイクする。小気味よく響くリズムは、祝福の拍手のように聞こえた。うっすらと霜のついたシェイカーから深い青と緑の間のような色、続いて優しい赤色の液体が注がれる。
「瀬戸内ブルーとサンセット、です。」瀬戸内の青をイメージした「瀬戸内ブルー」は岩﨑農園のレモン、竹原の藤井酒造の龍勢という日本酒をベースにブルーキュラソーとミドリというメロンのリキュールで飲みやすさと、なんとも言えない青さを生み出している。上品にグラスの縁を飾る塩も竹原のものだそうだ。そして「サンセット」はスロージン、アプリコット、オレンジがベースとなっており、大崎上島から見える夕日に見立てたチェリーが添えられている。

浴衣のまま乾杯し、グラスを片手にうっとりする。「青っていいわよね。海の青もそうだし、グリーンレモンの青も。50歳。100年時代の折り返し、青いままで良いって言われてる気がするわ。青い春よ。青春よ」マナらしい、前向きで勝手な解釈に私は笑う。きっと、25年前もこうして好意的な解釈をし、勝手に背を押されたんだろう。私の目の前に差し出されたサンセット。さっき眺めた夕日を思い出すとなおさら甘美に感じられる。えい、とグラスを傾ける。マナを見習って私もポジティブに解釈してみよう。50歳。人生100年と考えたら一旦サンセット。「陽はまた昇る」ということかしら?自分でも笑えてきてしまう解釈だったが、確かに何かが始まる予感がした。
「これが、私が感じたこの島の美しさです」田村さんの背を押したものを一杯のカクテルで表現してくださったのだろう。「ありがとうございます」二人同時に声が出た。節目の思い出を鮮やかなものにしてくださって、これからの人生の背中を押してくださってありがとうございます、と。「私はもともと寒いのが苦手でしてね。瀬戸内の春はいいですよ。春の息吹を2月から感じるんです」満面の田村さんの笑みを眺めながら、大崎上島の青い春を感じてみたいと思った。「カズエも考えちゃう?」思わず美味しいカクテルを吹き出しそうになる。「ますます健康は大事な時代になるし、トレーニングの需要はあるかもよ。いいじゃない。サンセットヨガとか?一緒に第二の青春しちゃう?」
先のことはわからない。けれども、明日も瀬戸内の青と夕日を味わおうと決めた私たちは、もう一度乾杯をした。

※本記事では、出演者の健康確認を行った上で、撮影のため一時的にマスクを外しています。

ツアーの詳細 / お問い合わせ先

問い合わせ先
きのえ温泉ホテル清風館
住所
〒725-0402 広島県豊田郡大崎上島町沖浦1900
TEL
0846-62-0555
営業時間
-
定休日
なし
対象年齢
なし
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