竹原町並み保存地区

「コトづくりに酔う非日常」
酒と歴史が心に沁みる、20代カップル旅。

リナ(24)は入社3年目のウエディングプランナー。業界の変化を、チャンスと捉えるためのヒントを探していた。そんな時、叔母からの一言で、彼氏であるインテリアデザイン事務所勤務のユウガ(23)と一緒に「安芸の小京都」と言われる広島の竹原に行くことを決めた。果たして、リナを動かした叔母からの一言とは…。

おばあちゃんたちの知恵袋。

「手を伸ばすのよ。背伸びをしてね。ギリギリ指先が届くくらいに。そうして、普段とは違う上質に触れてみることよ」。

困ったことがあると、私は昔からよく叔母に相談をする。いつも答えはくれないけれど、海外の絵本のような素敵な言葉でヒントをくれる。叔母は私の憧れだ。
「わたしがかわれば、せかいがかわる、よ」叔父と二人で広島の鞆の浦に行ってから、それが叔母の口癖だ。歴史ある広島の町がいい、と聞いてリサーチをした。日本でも屈指の酒どころでもあるらしい広島ならば、彼と行こう。おうち時間の充実による需要が増え、勤めているインテリアデザイン事務所にはリフォームの相談が後をたたないらしい。古い町家にも何かヒントはあるかもしれないし、忙しそうだから少しは好きなお酒で緩んだ方がいい。私の仕事も、以前とは違うスタイルで価値を提供する必要がある。そのためには少し背伸びをして、上質なものに触れたい。もちろんお酒も好きだけれど。

そう思い、歴史的な酒蔵と町並みを残すという「竹原」の、古くて新しい古民家ホテルに行くことを決めた。

80歳の美容法。

全国に123あるという「町並み保存地区」。城下町や商家町が多い中、竹原には唯一の特徴があるという。それは「製塩町」つまり塩作りで栄えた町だということだ。

竹原駅から車で20分ほど。穏やかな浜に小さな小屋があり、その横に水滴がキラキラと雨降りのリズムを刻んでいる屋根のようなものがある。昭和35年の塩田廃止により途絶えていた「流下式」の塩づくりを再現した施設で、太陽と風の力で、濃い海水を作っているのだそうだ。ここでは、釜焚きあく取り、攪拌などの体験を行うことができる。

「私ねえ、もう80歳なのよ」肌が艶々のお母さんが、かき混ぜ棒を手に湯気の中で出迎えてくれる。「見えないですね!」二人で驚く。「秘密はね、ミネラルを豊富に含んだ、この湯気をたっぷり浴びてるからなの」ほんのりとしたいい香りの正体が分かった。

広島は日本一の牡蠣の生産地。その牡蠣を育む豊かな海の底にある、アマモ、ワカメ、ひじきなどが、塩に栄養と味わい深さを与えているという。湯気の中、棒を使って一緒に塩をかき混ぜる。ミネラルを体内に取り込んでいる気になっていたのと単純作業が相まって心地よい状態に入ってしまった。雑念も、目の前の白に溶けてゆくようだ。

「製塩は夏場の作業でね。塩を作っていない冬場、余った労力と築いた財力を酒づくりに転用したんです。そうして、旦那と呼ばれたオーナーたちが学問や芸術を守り、実践し、文化が栄えていったんですよ」

一緒に作業していたNPO法人ネットワーク竹原の佐渡さんが教えてくれる。ついでに、竹原に残る三つの酒蔵とその特徴を教わる。私たちに抜かりはない。知識と出来立ての温かい塩を受け取って、町並み保存地区へ向かうことにする。

「子供の頃、い草のいい香りの中で、親父の畳作りをずっと眺めてたの思い出したよ」静かな海を眺めて、ユウガが嬉しそうに微笑んだ。

POINT!

竹原にはいずれも創業150年を超える、3つの老舗酒蔵があります。日本のウイスキーの父とされる竹鶴政孝氏の生家としても有名な竹鶴酒造は、酒らしい酒の蔵。世界最高権威のワインコンクールにて第一回日本酒部門において最高金賞を受賞した藤井酒造は純米酒のみを醸す蔵。昭和23年から25年までの三年間、皇室新年御用達酒の栄を賜った歴史のある中尾醸造は気候風土を生かした旨口を目指す蔵として知られています。地元の食材と共に、それぞれの個性を楽しんでみてください。

知識が、体験を鮮やかにする。

「浜旦那、だってね」ゆったりとした時が流れる浜を眺めた後に耳にすると、なんとも優雅で余裕のある言葉に感じられた。江戸時代、塩田経営や廻船業、醸造などで財を築いた塩田の経営者はそう呼ばれており、それぞれが競うように豪華な家を建て、住居や町並みの整備に多大な労力と財力をかけていたらしい。町並み保存地区では実際に、そういった建物に触れることができる。

歴史を語り継ぐ町を地域のみなさんが大切に守り続けているであろうことは、随所で感じることができる。例えば、多くの家の門前に飾られている花。これは「おもてなし」の心の表れだという。知識が少しでもあるだけで、体験は鮮やかなものになり、町の持つ温かみも変わってくる。

今日のホテル「NIPPONIA HOTEL 竹原 製塩町」にチェックインする。日本各地で歴史的建造物をリノベーションし、プロのホテルパーソンがサービスを提供する古民家ホテルだ。サービス業の若手としては背筋が伸びる。これが、叔母の言う「上質」というものだろう。背伸びで心のふくらはぎが、つりそうになっているがそれをひた隠し、少しでも学びに変えようとする。そんな私にも、スタッフの方はあたたかい。

丁重に、しかしさりげない気遣いで案内してもらい部屋に入る。中庭が見える。足と時が一瞬止まる。室内の至るところを眺めながら、私はセンスのいいアメニティやグラス類をみていたが、彼は机の上にあった職人の本を手にしていた。
「日本美のこころ 最後の職人ものがたり」というタイトルだ。少し見せてもらうと、はじめに気になる一言があった。“「伝統とは残すものではなく、残るもの」であるような気がしている。”

「畳、やっぱり落ち着くんだよなあ」モダンでありながら趣を残す室内で、足元の畳を見ながら彼はそう言った。知識が、体験を鮮やかにする。

先人と土地に乾杯を。

夕食まで時間があったので、荷物を置いてまた散策に出た。正確にいうと、酒にお呼ばれした。感覚を頼りに町を歩くと「藤井酒造 酒蔵交流館」にたどり着いた。お酒を核として、地域文化、食文化に貢献したい。地区の中間位置ということもあるけれど、そんな気持ちから無償の休憩スペースとして始まった場所だそうだ。

江戸時代末期に建てられた酒蔵の一角を改造したという室内は、地域のマイナスイオンを調べてもらったら、発生量が一番高かったらしい。

「蔵の木、土、そして周囲の山からもたらされる、豊富な地下水のおかげだろうね」高い天井、太い梁や柱を眺めながらユウガが言う。安らぐ空間には、ちゃんとした理由があるのだ。

そんな場所でいただく創業銘柄“龍勢”の特徴は、細やかで丁寧な酒造りの結果として誕生する上品な芳香はあるが、 突出した香りを求めた酒ではない。華美な香りではない分、料理に合わせて様々な温度帯で楽しめる、複雑で深みのある食中酒、とある。

試飲を待つ間、代表取締役社長である藤井さんのお話を伺うことができた。

「飲みやすくて分かりやすい画一的なものは飽きられてしまう。分かりやすいものは、管理しやすいですが、危ない一面もある。分かりにくいものに魅力を感じるんです。経験、勘、微生物との共生で一部に木桶を使っているのには、そういう理由もあるんです」

※コロナウイルス感染拡大防止のため、試飲を一時中止しております。
再開の時期につきましては、お問い合わせの上ご確認をお願い致します。

お酒の特徴から、文化について話は続く。

「先人が培った良いものを掘り起こし、お酒を通してその良さを再確認したいんですよ。お燗を飲むなら徳利、器がいるでしょう。湯煎するものがいる。火鉢が必要になる。そうなると掛け軸がかけたくなる。着物を着たくなる…文化とはそういうことでしょう。私は、竹原をそういう文化を感じられる町にしたいんです」昼間に聞いた浜旦那、という単語。その真髄に触れられた気がした。

試飲の一口で酔いが回る。体の中に上質なアルコールと歴史が巡る。竹原の文化を築いた先人に改めてグラスを掲げた。熱いものを体の真ん中に灯しながら、石畳を歩き夕食へと向かった。

藤井酒造 酒蔵交流館
〒725-0022 竹原市本町3丁目4-14
TEL 0846-22-5158
営業時間 10:00 – 17:00 ※毎週月曜日定休(祝日の場合は翌日)
URL http://www.fujiishuzou.com/

背伸びするから見える景色。

「NIPPONIA HOTEL 竹原 製塩町」はフロントと客室が離れた場所に点在している。食事の前にチーフの吉母さんにお話を聞いた。

「フロントと宿泊棟、食事を分けているのは、町に分散することで歩いてもらいたい、回遊のきっかけとなって町に溶け込みたいという思いがあるんです。うち自体が、竹原に来ていただく目的になりたいんです」

塩作り体験の話、藤井酒造さんでの話、背伸びをしてでも来てよかったこと。実は同じ業種であることを伝えると、微笑みながら吉母さんは続ける。

「確かに若い方は多くはないですが、だからこそ、いいものをお伝えしたいし、驚きをご提供したいと思っています。良いものに手を伸ばしてほしいですし、そのご期待を超えたいです」

そのお話を伺ってからの食事はさらに豊かな体験となった。山海前菜の名にふさわしい前菜、瀬戸内のハマグリや一本釣りの穴子、季節の魚にレモンの風味。広島の至れり尽くせり。峠下(たおした)牛や、他のものにも塩が添えられていることに地元への愛や心意気を感じる。私たちは、土地のものを中心とした15種類の中から選んでもらえる日本酒とのペアリングをたっぷりと堪能した。背伸びしていた心のふくらはぎの痛みは、いつの間にかほぐれていた。

上質なコトに酔いしれる夜。

土地のものと地酒のペアリングに心地よく酔った食後。叔母へのおみやげを何にしようか考えていた。

ユウガは昼間、藤井酒造で“龍勢”を買っていた。「こういう状況じゃ、なかなか会いには行けないから手紙を書いて一緒に送ろうと思うよ。親父の作る畳はみんなの日常を支えてると思う、って」と照れながら言っていた。ステイホーム需要に対し、もっと畳や日本古来のものを取り入れた提案をしていきたい、とも。

私は。

今回の竹原で、ただでさえすごい人たちが、それぞれの場所で先人のバトンを受け継いで、今を走っている姿を目の当たりにした。皆、モノだけでなく、コトを作っていた。
私も、まずは手の中にあるバトンを見直そう。自分を形成してくれている人、モノ、コトに感謝を伝えよう。そうすることが、結果的に仕事のヒントにつながっていくはずだ。

夜の中庭を眺めながら、変わっていこう!と変わった私を、叔母に持ち帰ろうと思った。「きっかけをありがとう。いつか、一緒に来ようね」そんな一言を、竹原の町並みの一輪挿しのように添えて。

※本記事では、出演者の健康確認を行った上で、撮影のため一時的にマスクを外しています。

ツアーの詳細 / お問い合わせ先

問い合わせ先
NIPPONIA HOTEL 竹原 製塩町
住所
〒725-0022 竹原市本町 1丁目4 -16
TEL
0120-210-289 VMG 総合窓口(11:00~20:00)
営業時間
-
定休日
なし
対象年齢
制限なし
事前予約
要予約
※お電話の際は「NIPPONIA HOTEL 竹原 製塩町」のお問い合わせとお伝えください。

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