天空アドベンチャーと
神楽門前湯治村

「天高く舞う非日常」
バギーと神楽に心も踊る家族旅。

キイチロウ(52)はセレクトショップのオーナー。念願だった自分の店を50歳を機にオープンさせた。常連のお客さんからの一言をきっかけに、ジュエリー作家の妻・エミ(49)と息子のシン(8)と久々の旅行に出かけることにした。互いに土日も仕事だからこそ子供の楽しみを第一にしたい。そう考えて、決めた行き先は広島の県北だった。

広島の山情報に胸が弾む。

「山での自転車は、街とは違う楽しさがありましたね。男二人で山頂から絶景拝んで、おむすび食べて、コーヒー飲んで、温泉入って。広島は瀬戸内海のイメージありましたけど、完全に山派になりましたね」

常連の若い子が、3席のカウンターでコーヒーを飲みながら話す。コーヒー、といっても喫茶店ではない。セレクトショップだ。洋服や雑貨、レコード、バイク…まさに好きなものだけをセレクトしたお店。50にしてようやく持つことができた自分の城だ。

最近子供と遊べていなかったので親子3人旅行でも、と世間話をしていたら、広島の山の魅力を教えてもらった。

「山側、良かったですよ。僕たちが乗った電動マウンテンバイクの他にも、色々楽しめるみたいで。バギーとか」何?バギー!?いくつになっても男の子な私は、エンジンがついているものに目がない。俄然興味が湧いてきて、広島観光について調べてみることにした。

シンが生まれた際、妻のエミと決めた子育ての方針は、「はじめてを、たくさん一緒にしよう」というものだった。

私はセレクトショップ。妻はジュエリー作家。幸いなことに、お互い好きなことを仕事にできている。好きなことがある、そのありがたさを知っている。だから、シンにも好きなものを見つけてもらいたい。そのために、きっかけをたくさん与えてあげたい。そしてどうせなら、同じ目線で楽しみたい。そう思って決めたことだ。

シンも乗り物が好きだ!それに、車での移動にしたら、ゆっくり話もできるだろう。家族で楽しめる「はじめて」をたくさん集めてみよう。そうして、広島の山側のスキー場と、昔懐かしい体験を、家族で楽しめるという温泉に行くことにした。

標高1,000mのアドベンチャー。

広島駅新幹線口に到着。レンタカーをピックアップして、いざ北広島町へと向かう。途中、サービスエリアでひと休憩入れる。30分くらい運転しただけなのに、すっかり山の空気を感じることができる。久しぶりに一緒の週末。食事はなるべく3人一緒に食べるようにしているが、車内での会話はまた一味違って良い。

最初の目的地に向けさらに車を走らせると、広い土地に昔ながらの作りの家屋が見受けられた。「あ!牛がいる!」動物も好きなシンが興奮している。それを見て、妻のエミと笑う。

広島駅から約80分、北広島町の「ユートピアサイオト」に到着。市内より風がだいぶ涼しく感じる。
こちらは、バラエティー豊かなコース展開が魅力の西日本最大級のスノーパークだ。4月〜11月の間は積雪がないので、滑車を使って木々の間に張られたワイヤーロープを滑り降りるジップラインや、満天の星空がお出迎えしてくれるキャンプ・グランピング、電動マウンテンバイクなど様々なアクティビティを楽しむことができるらしい。一年中アウトドア、のキャッチコピーが書いてあるポスターが目に入った。

私たちのお目当ては、「天空バギーアドベンチャー」。標高1,000mの西中国山地の山並みを爽快に駆け抜けるアクティビティだ。冬は雪があるので真っ白なゲレンデのイメージだが、夏は舗装されていない山道として楽しむことができる。滑っている時には想像もつかないようなボコボコ道や、身長ほどにも伸びた草原に向かって突っ込んでいくポイントもあるそうで、標高・高低差・走行距離のすべてが規格外の非日常を楽しむことができるそうだ。

並んでいる、赤と黄色のカラフルなバギーにワクワクしながら、入口へ向かう。
最近外に出て思いっきり遊ぶ機会もなかったし、今日は目一杯山の空気を堪能しよう!

「こんにちは!今日はよろしくお願いします」スタッフの坂根さんにご挨拶をする。
早速バギーの準備に移り、説明を受ける。バギーで万が一転倒した際に離れ離れにならないように、シンと私はハーネスをつける。そして、いよいよバギーにまたがる。私はワクワクしかないが、エミとシンはどうやらドキドキが勝っているようだ。

アクセル、ブレーキの操作方法を教わりエンジンをかけると、やるしかない!と腹がくくれたのか、エミの顔も一気に明るくなった。振動が足へ伝わる。ああ、エンジン最高…。クセでつい、フカしてしまう。まずは前進とバック。そして駐車場を一回りしたら、いよいよコースへ!

妻の後ろを私とシンのバギーが走る。車でもバイクでもない感覚。これは楽しい! 「どうですか!?」先頭の坂根さんが妻を気にかけてくれている。「楽しい、です!」大きな声で答えている。はじめてを楽しむ才覚が互いの長所だと思っている。シンも最初は怖がっていたようだが、だんだん周りの風景を見られるようになってきたのか、使われてないリフトやお尻に伝わる振動など、興奮しながら教えてくれるようになった。

スキーで言えば中級のコース。なかなかの傾斜の岩と砂利の一本道をいく。しっかりとハンドルを握る。道を全身で掴んで「制する」ような気分がさらにテンションを上げてくれる。そして天に向かってアクセルを開くと雲が近くなった。ついに…標⾼1,000mのゴールにたどり着いた。

西中国山地を一望する。「気持ちいいー!!」エミもシンも深く吸い込んだ息を、大きな声に変え遠く海の方へと発していた。来てよかった。広島の山の良さを教えてくれた常連の男の子にお礼を伝えよう、と思った。

下りは下りでまた楽しかった。エミもシンもすっかり慣れたようだ。「お母さんきをつけてねー!」「大丈夫よー!」私をすっ飛ばして会話をする余裕もある。行きには目に入らなかったアスレチックやブランコも見えて興奮したのだろう、シンの「ヒャッホー!!」が高い空に吸い込まれていった。

「またスキーもしに来たいわね」「大きくなったら、自分で運転したいな」興奮冷めやらぬままそんな会話をしながらバギーと、ガイドの板根さんにお礼を告げ、ユートピアサイオトを後にした。

POINT!

POINT!

大朝のテングシデ群落

世界中でこの地にだけ群生する、幹が曲がりくねり、枝がしなだれるなどの特徴を持った珍しい木です。イヌシデの一変種で、大小約100本が北広島町大朝の田原・灰谷に群生しています。天狗の伝説があることから 「テングシデ」と呼ばれ、地元の人達から大切にされてきました。2000年には国の天然記念物にも指定された、絵画の世界のような不思議な空間、ぜひ足を運んでみては!

〒731-2105 山県郡北広島町田原灰谷
https://www.hiroshima-kankou.com/spot/5512

おとぎ話に迷い込む。

再び車に乗り込み、次の目的地に向かう。窓を開け、空気を吸いながら、バギーで登った山頂のことを思い出す。「このあたりは星がきれいだろうね」とエミが話している。「今度はお泊まりでキャンプだね!」シンが笑う。そうだな、次はバギー3台だな。

ユートピアサイオトから1時間ちょっとで、安芸高田市の「神楽門前湯治村」に到着。広々とした山の中の敷地に、そこだけタイムスリップしたかのような空間が広がっていた。

足を踏み入れると、茶色の瓦屋根の建物の軒先には提灯が連なっている。赤いポスト、縄のれんにブリキの看板…。通りに流れる祭囃子と店先に漏れ聞こえる歌謡曲。「はじめてなのに懐かしい」が謳い文句だが、なるほど、と納得した。幼い頃の自分がひょこっと出てきて、シンの手を引いて遊びに誘うような気がした。今日はここではじめての神楽を堪能し、ゆっくりと天然温泉に浸かるのだ。

バギーの揺れもあって、お腹はすっかり空っぽだった。早速村の物語に迷い込んでみよう、と「権兵衛」で食事をすることにした。

昭和レトロの落ち着いたカウンター席におでんなどの一品のメニュー。つい飲みたくなるが、我々はテーブルで食事のメニューを開く。

餅の入った恵比寿うどんや味噌仕立ての田舎うどんも魅力的だったが一番人気の「夜叉うどん」に決めた。唐辛子の効いたうま辛の特製スープに、豚肉と地元特産の青ネギがたっぷり乗った逸品とのこと。“神楽のまち”である安芸高田市の名物らしく、神楽に登場する女の鬼「夜叉」にちなんでうまれたのがこのうどんらしい。毎日毎日タダでうどんを食べていく鬼に悔しい思いをさせられていた「権兵衛」さんのご先祖さまが、いつものうどんに真っ赤な唐辛子をたっぷり入れたうどんを出した、という昔話が空腹を楽しいものにしてくれた。

早速いただく。豚肉も青ネギも辛味も大好物なので期待はしていたが、これは、ウマ辛い!鬼はこりゃまいったまいったと、涙を流しながら山へ逃げ帰ったそうだが、私はうまさに「まいった!」と感じた。うどんも村の中で作っている自家製のものだそうで、エミもシンも満足そうな様子だった。他にも地元の山の幸を生かした食事やお土産が充実しているようなので、夜の宿泊も楽しみになってきた。 軽食や喫茶、団子屋さんなどもあるようなので、あとでお茶をしてもいいかもしれない。

日本の伝統的ミュージカルに出会う。

今回の旅の我が家の「はじめて」。バギーともう一つのそれは「神楽」だ。

神楽とは、広島県が世界に誇る伝統芸能。華やかな衣装をまとい、表情豊かな神楽面をつけた人たちが太鼓や笛、拍子のお囃子で舞う姿はさながらミュージカルのよう、だそうだ。実際にパリコレ公演も行ったことがあり「壮麗さはヨーロッパのオペレッタにも似て、そのスピード感はブロードウェイミュージカルのよう」との自負もある、とのこと。

学生時代に知り合った私たち、芸術学科だったエミの影響もあって、ミュージカルや舞台には何度か連れてってもらったことがある。知識がなくても衣装や演者さんの表情など、そのライブ感が私を魅了したので、今回も楽しみだ。
「勧善懲悪」のストーリーで小さな子供、初めて観る人でも楽しめるとあったのも決め手となった。

ここの湯治村には千畳敷の広さの観客席を持った、日本では他に例のない神楽専用の観覧施設「神楽ドーム」がある。さすが。“神楽のまち”である安芸高田市だ。腹ごなしに湯治村内を見物しながら、奥にある神楽ドームへと向かう。門をくぐると目の前に現れたのは、まさに立派な「ドーム」だった。

この神楽ドーム、屋根は東京ドームと同じ膜を張ってあるそうで最大 1,500 人もの人々が快適に神楽を鑑賞することができるそうだ。 毎週末の定期公演をはじめ、神楽大会など、冬以外は一年を通して華麗な舞いが楽しめるらしい。

説明にはこうあった。「頭の中も心の中も真っ白け。そんなムクな方でも楽しめるのが安芸高田神楽です。好奇心だけ携えて、神楽門前湯治村『神楽ドーム』へいらしてください」

観るときも、難しいルールはなし。一般の芸能鑑賞とは違い飲食もおしゃべりも声掛けも全部OK。なぜなら神楽はもともと神様と一緒に楽しんでいただくもので、欠点多き人間のやることなんか、大抵目をつぶってくださるわけです、とのこと。

良くいえば「おおらか」が基本方針の私たち家族にはピッタリだと思った。初心者大歓迎、のお言葉に甘え、いざ3人で「はじめて」の扉を開けた。

40分ほど、夢中になって3人で楽しんだ。衣装の美しさに目を奪われ、舞に息を飲み、美女役が鬼に変わる瞬間などに手を叩き、あっという間の時間だった。

私たちが観劇したのは、鎮守府将軍・平維茂が戸隠山で紅葉狩りの酒宴を開いている美女たちに出会うがその美女たちは実は鬼で…
というあらすじの、「紅葉狩」というポピュラーな演目だった。

台詞は分からなくてもシンもしっかり楽しんでおり、ドームから出た後、舞人さんの口上を真似ていた。

安芸高田市内に22の神楽団が在ること。舞人さんたちは年間を通じて、神楽にいそしんでいること。神楽はあくまでも「祭事」であって職業ではなく、普段はそれぞれ仕事や勉学に励む一方、団員として神楽の継承と保存に大きな役割を担っていること。この大衆化が、神社・神に対する信仰心を繋ぎ止め、自然や神への畏敬・恩恵に対する先人の心を今に止める大きな役割を果たしていること。いずれも後から知ったことだが、舞台を思い返すと、舞い以外の点にも胸が熱くなった。

神人和楽(しんじんわらく)。神も人も一緒になってわいわい和やかに楽しむという神楽の真髄を指す言葉だそうだが、常に意識したい自分への大切なお土産となった。無事にこうして3人で旅行に来られていることがありがたい。「ありがとうございます」と胸の中で呟き、ドームを振り返り山の方に向かって手を合わせた。

POINT!

神楽夜公演

神楽を観るなら夜じゃないと!もともと神楽は自然や神に対する感謝の祭りであると同時に、年に一度のハレの舞台でもありました。地元のお祭りではいまも夜遅くまで(中には明け方近くまで!)神楽が舞われます。
せっかく神楽の本場に来たのですから、 夜の神楽で地元のお祭り気分を味わってみては?
湯治村では、金曜の夜神楽と特別な御膳を、観て、食べて楽しんでいただけるお得なプランもあるので合わせてチェックを!

「はじめての懐かしさ」を歩く。

神楽を楽しんだ後は「神楽体験館 和楽」に足を運んだ。ここでは神楽グッズ製作体験工房があり、鬼棒や剣など神楽の小道具作り体験だけでなく、神楽の舞台を再現したミニ体験舞台、神楽の演目紹介・神楽クイズコーナーもある。

ここはものづくり一筋、手先が器用なエミの出番だ。シンはその血も強いのだろうか。一緒になって楽しそうに、というよりは夢中で、神楽グッズ作り体験に没頭していた。スタッフの方が「どれでもいいよ。好きに作ろう」と声がけしてくださる。用意された色とりどりのシールから好きなものを選んで貼り付け、オリジナルの神楽グッズが出来上がった。

ふたたび散策を楽しむ。

駄菓子から自家製豆腐、アイスまで様々な店が集まった湯治村には、昔懐かしい駄菓子やおもちゃを扱うお店から、作りたての自家製豆腐、地元の幸、話題の縄文アイスまで、バラエティに富んだお土産屋まである。

駄菓子の「めじろや」では 金平糖や花林糖のほか、昔小銭を握りしめては買いに行っていた懐かしい駄菓子をたくさん見つけた。シンも夢中で予算のやりくりを楽しんでいる。「電子マネーも使えるって、なんか不思議ね」シンの横でエミが笑う。隣のおもちゃの「どんじゃら堂」でも、昔親しんだ民芸玩具や竹細工、木工玩具に、幼少時代の様々なことを思い出した。
おみやげ処「道面商店」 では、湯上り美肌筆や、縄文アイス、安芸高田市特産三矢えびすなど地元安芸高田のふるさとの産品に目移りする。神楽の本やDVD、小道具もちゃんと置いてある。
ちなみに屋号「道面商店」は、このあたりの古い地名である「道面」からだそうだ。一つ一つのお店に「こぼれ話」の物語があり、本当に村の人になった気がしてきた。温泉に浸かって浴衣に着替えたら、きっともっとその気分は増すことだろう。

POINT!

川口健治絵画館(湯治村内)

油彩、水彩を中心に風景画、特に故郷の瀬戸内や日本の懐かしい景色、伝統芸能などをテーマにした作品を数多く描いた画家、故・川口健治氏の作品を多く収蔵した絵画館です。
故郷の瀬戸内や日本の古き良き景色、伝統芸能をテーマにした作品が多く知られ、山口県美術展知事賞、 国際芸術文化賞、パリ国際展グランプリなどを受賞、2000年に山口県文化功労賞受賞、2001年には紺綬褒章を受章した氏の、油彩、水彩を中心とした風景画をぜひ神楽の本場で味わってみましょう。

家族が温まる夜。

すっかり日も暮れてきたので、温泉の「岩戸屋」に向かう。昔の湯場があったと言われるところから源泉を汲み上げた天然ラドン温泉で、湯ざわりよく柔らかで湯上がりポカポカと評判の湯だそうだ。そのあとは「旅籠 千両萬両」で地元の幸を味わう。

岩戸屋は露天風呂に大浴場、屋外バルコニージェットバスに寝湯まであって、シンも大はしゃぎしていた。蒸気サウナや水風呂まであって、大人にも嬉しい施設だ。エミもゆっくりできているといいが。

「たくさん、『はじめて』楽しめたね」シンが湯に浸かりながら隣で話した。1日の終わりに、今日は何が楽しかったかを報告し合うのが我が家の決まりだ。
いつまではじめてを一緒に楽しむことができるだろう。そして、シンは何を好きになって大きくなるのだろう。
「今日は話すこと、たくさんありそうだなあ」
ゆっくり温まることができたから、あとで3人で浴衣で散歩をしてみよう。そして今日は、広島の星空にも報告をしよう。

※本記事では、出演者の健康確認を行った上で、撮影のため一時的にマスクを外しています。

ツアーの詳細 / お問い合わせ先

問い合わせ先
ユートピアサイオト
住所
〒731-2314 山県郡北広島町才乙144
TEL
0826-35-1234
営業時間
9:00〜15:30
定休日
不定休 ※HPをご確認ください
対象年齢
6歳以上
事前予約
要予約

特にオススメの時期

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問い合わせ先
神楽門前湯治村
住所
〒731-0612 広島県安芸高田市美土里町本郷4627
TEL
0826-54-0888
営業時間
毎週金・土・日・祝日
定休日
冬季(12月~3月)の金曜日
対象年齢
小学生以下、保護者同伴
事前予約
不要

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